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第3章「母との別れ」

更新日:2022年7月8日




【解説】

 「父遺言のことありければ」とは言え、無論、定明の追撃から避難したといえるでしょう。勢至丸は15歳になり、元服か出家かの決断を迫られたのだと思います。


 しかしそれら世俗の通り一遍の邪推をよそに、母上を説得される言葉の中に勢至丸の強い意志が感じ取れます。母一人を置いて、故郷を離れる寂しさを隠しながら。


 勢至丸が言った決意の程は、剃髪出家の際に誓う「報恩偈」の精神です。

  〝三界(六道輪廻)を流転する中に恩愛(の絆)を断つこと難し。

   恩愛の束縛から離れてさとりの境地に入ることこそが本当の親孝行(報恩)である〟


 人情としては、あくまで「浮生の別れ惑い易く」、秦氏の涙にもらい泣きをしてしまいます。その思いは勢至丸とて同じなのです。

 別れの一年後、母上は世を去られます。勢至丸は天涯孤独の身となり、両親の想いを背負って求道に生きられるのです。

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